フックドラグを始めたばかりの方や、独学で楽しんでいる皆さん、こんにちは!
フックドラグの魅力にとりつかれ、いざ作品を作り始めようとした時、多くの人が立ち止まるポイント、それが**「布選び」**ではないでしょうか。「どんな布を選んだらいいの?」「これで本当に大丈夫かな?」と、不安になる気持ち、よく分かります。私も最初はそうでした。
しかし、この布選びこそが、あなたのラグに命を吹き込み、唯一無二の個性を与える、最もクリエイティブで楽しい工程の一つなんです。今回は、とうげミュージアムの真砂紀子(まなごのりこ)が、皆さんのフックドラグ作りがもっと楽しく、もっと素敵なものになるための布選びのヒントを、具体的な例を交えながらたっぷりご紹介します。
フックドラグに使う布として、私が声を大にしておすすめしたいのが、何よりも**「純毛(ウール100%)」**の生地です。その理由は、多岐にわたりますが、一度その魅力を知ってしまうと、もう他の素材では満足できなくなるほどです。
Contents
1. 夢のような刺し心地
フックドラグは、専用のフックを使って布を土台布に刺し込んでいく作業です。この時、布がスムーズにフックを通り抜けるかどうかが、作業の快適さを大きく左右します。ウールは繊維がしなやかで、適度なコシがあるため、フックが驚くほどスッと通り、サクサクと作業が進みます。例えば、ポリエステルの混紡生地だと、フックが引っかかったり、繊維が切れやすかったりして、ストレスを感じることが少なくありません。純毛ウールならではのこの「刺し心地の良さ」は、特に長時間集中して作業する上で、あなたの手への負担を軽減し、制作意欲を保ってくれる重要なポイントです。
2. 足元から伝わる、至福の肌触り
完成したラグは、あなたの生活空間を彩るだけでなく、実際に触れて、踏みしめるものです。ウールは、その自然な油分(ラノリン)のおかげで、驚くほどしっとりとしていて、肌触りが抜群に良いのが特徴です。リビングのソファの足元に敷けば、冷える夜でもじんわりと足元を温めてくれます。ベッドサイドに置けば、朝目覚めた時に最初の一歩が優しさに包まれるでしょう。例えば、アクリル製のラグと比べると、ウールラグの温かみと吸湿性の高さは歴然です。夏は涼しく、冬は暖かい、まさに一年中快適に使える「生きた素材」なのです。
3. 圧倒的な耐久性と復元力
「一生もの」のラグを作るからには、長く愛用したいですよね。ウールは、その繊維一本一本が持つ驚くべき耐久性が魅力です。弾力性に富んでいるため、踏みつけられても元の形に戻ろうとする力が強く、へたりにくいのが特徴です。例えば、玄関マットとして使えば、家族の出入りの多い場所でも、その美しさを長く保つことができます。また、ウールは汚れにも強く、簡単な手入れで清潔さを保てるのも嬉しいポイント。適切に手入れすれば、何十年と使い続けることができ、世代を超えて受け継がれる「家宝」となる可能性を秘めています。
4. スチームアイロンで仕上がりの美しさが格段にアップ
フックドラグ作りでは、ループの高さが少し不揃いになることもあります。特に始めたばかりの頃は、なかなか均一に刺すのが難しいと感じるかもしれません。しかし、ウールであれば心配いりません。ウールは熱と湿気に反応しやすい性質があるため、スチームアイロンを軽く当てるだけで、ループの目が驚くほどきれいに揃い、ふっくらと整った仕上がりになります。この「魔法のような効果」は、他の素材ではなかなか得られない、ウールならではの大きなメリットです。まるでプロが作ったかのような、完成度の高いラグに仕上がりますよ。
5. 豊かな表現を可能にする染色の魅力
ウールは染料が深く浸透しやすく、非常に美しく発色します。深みのある色合いから、鮮やかなポップな色まで、あなたのイメージ通りの色を表現することができます。また、自分で染色をする場合でも、ムラの調整もしやすく、色の濃淡をコントロールしやすいのも特徴です。この染色のしやすさが、あなたの創造性を存分に引き出し、より豊かなデザインのラグを生み出す手助けとなるでしょう。
新しい生地と古着を賢く使いこなす布選び術
「ウール100%がいいのは分かったけれど、全部新しい生地で揃えるのは費用もかかるし大変そう…」そう思った方もいるかもしれません。ご安心ください!フックドラグの素晴らしい点は、**「リサイクル」や「アップサイクル」**の精神を取り入れられることにもあります。
日本フックドラグ協会では、皆様に最高のフックドラグ作りを楽しんでいただくため、2025年夏念願の国産ラグ用の高品質なピュアウールを製作依頼しました。当協会がラグ専用のウールを扱うことになります。これらの専用ウールは、色の種類が豊富で、一定の品質が保証されているため、作品のメインとなる色や、特にこだわりたい部分に使うのがおすすめです。例えば、背景となる大きな面や、作品の印象を左右するキーカラーには、質の良い新しいウールを使うことで、作品全体の安定感と高級感が増します。
一方で、全てを新しい生地で揃える必要は全くありません。むしろ、あなたの周りにある「眠っているウール」を有効活用することで、ラグにストーリーが生まれ、より一層愛着がわくはずです。
- 虫に食われて着られなくなったお気に入りの洋服: 大切な思い出の詰まったセーターやジャケットが、新たな命を吹き込まれてラグの一部になるのは、とても素敵なことです。
- デザインが古くなってしまったマフラーやストール: 色や柄が好みでもう身につけないマフラーも、ラグのアクセントとして活躍できます。
- フリーマーケットや古着屋さんで見つけた掘り出し物: 思わぬ場所で、運命のウールに出会えることも。宝探しのように楽しめます。
ただし、古着を布として利用する際には、一つだけ非常に重要な注意点があります。それは、必ず**「ウールマーク」**が付いているかを確認することです。あとは、しっかり洗ってから使ってくださいね。
**「ウールマーク」**は、その製品が国際羊毛事務局(The Woolmark Company)によって定められた厳しい品質基準を満たした、高品質なウール製品であることの証です。このマークがあれば、その布が「純毛」であること、あるいは高いウール含有率であることが保証されます。ポリエステルやアクリルなどの化学繊維が混紡されていると、刺し心地が硬くなったり、耐久性が落ちたり、スチームアイロンでの仕上がりがイマイチになったりすることがあります。せっかくの努力が無駄にならないよう、このチェックだけは怠らないようにしましょう。
ラグに「命」を吹き込む、花や実の布選びのコツ
フックドラグで花や実などの自然のモチーフを表現する際、布選び一つで作品の印象は劇的に変わります。特に、これらの小さなパーツこそ、布の選び方で「生き生きとした」表情を与えることができます。

花のデザイン:ムラ染めとテクスチャーで躍動感を
花びらには、ぜひムラ染めやテクスチャー(織り柄や質感)に特徴のあるものを組み合わせて使ってみてください。
例えば、一色のベタなピンクのウールで花びらを刺すのも可愛いですが、濃淡のあるピンクのムラ染めウールを使ってみるとどうでしょう?光の当たり方によって、花びら一枚一枚に陰影が生まれ、より立体的に、そしてまるで本物の花が持つような繊細な表情が生まれます。
また、少し畝のあるツイル織り(綾織り)のウールや、わずかに毛足の長いウールなどを混ぜて使うと、単調になりがちな花びらに変化が生まれ、触れたくなるような質感が加わります。このように、異なるテクスチャーのウールを組み合わせることで、ラグ全体に深みと動きが生まれ、作品がより生き生きと元気な印象に仕上がります。
花芯や実:単調を避ける「柄物」の魔法
花の中心部分である花芯や、小さな実の表現は、意外と布選びが難しいものです。安易に色無地を使ってしまうと、せっかくの作品が「なんだか幼稚っぽく」見えてしまうことがあります。
ここで活躍するのが、柄物の生地や、織り柄のある生地です。
- ヘリンボーン(綾織)の生地: 例えば、**ヘリンボーン(杉綾織り)**のように、斜めに線が入った織り柄のウールは、単色でありながらも表情があり、花芯に深みと知的な印象を与えてくれます。無地のウールを刺した際に感じる「のっぺり感」を解消し、ぐっと大人っぽい仕上がりになります。まるで、緻密なパターンのタイルを組み合わせたかのような、繊細な美しさが生まれるでしょう。
- アンティークのペイズリー柄: そして、もし手に入れば、アンティークのペイズリー柄のウールは、花芯や実の布として、まさに「贅沢な選択」です。複雑で優雅な曲線が織りなすペイズリー柄は、小さな面積でもその存在感を放ち、ラグ全体にエキゾチックで洗練された雰囲気をプラスしてくれます。アンティークならではの、年月を経たような落ち着いた色合いも魅力です。これは、単なる「点」ではなく、「物語」を宿したアクセントとなるでしょう。

刺している途中で「なんだかちょっと違うな?」と感じたら、ぜひ単色の布から、柄物の生地や染めムラの大きなものを試してみてください。きっと、目から鱗の発見があるはずです。小さなパーツだからこそ、布選びの冒険を楽しんでみましょう。
美しい裏側もフックドラグの証
フックドラグの魅力は、表面の美しさだけではありません。実際に作品の裏側を見てみると、そこには規則正しく並んだループの根元と、わずかに土台布(リネン芯地)が見えるはずです。
フックドラグは、基本的には裏側もきれいに仕上がります。これは、あなたが丁寧に、適切な力加減でループを刺し込んでいる証拠です。少々リネンの芯地が見えているくらいが、布がぎゅうぎゅうに詰まりすぎず、適度な通気性も保たれる「ちょうどよい刺し加減」と言えます。裏側まで美しい作品は、それだけで制作者の丁寧な手仕事が感じられ、作品全体の価値を高めてくれます。

さあ、あなただけのラグを!Let’s enjoy Rughooking!
フックドラグの布選びは、決して難しく考える必要はありません。今回ご紹介したヒントを参考に、まずは手元にあるウール素材を眺めてみたり、お気に入りの古着を探しに行ったりすることから始めてみませんか?
一枚の布が、あなたの手によって、温かく、美しく、そして唯一無二のラグへと生まれ変わる。この素晴らしい体験を、ぜひ心ゆくまでお楽しみください。
もし布選びについて、もっと具体的なアドバイスが必要な場合は、いつでも日本フックドラグ協会にご相談くださいね。あなたのフックドラグ作りが、実り豊かなものになりますように。
今日はこのくらいで。また次回、お会いしましょう!
by Noriko Manago